「はるかぜちゃん」こと春名風花,誹謗中傷被害315万円で示談

元子役で女優・タレントの「はるかぜちゃん」こと春名風花さん(19)と春名さんの母親が,Twitter上での誹謗中傷をした人物を相手取り,慰謝料など265万4000円の損害賠償を求めた訴訟について,2020年7月16日,横浜地裁で刑事告訴の取り下げと被告側が春名さん側に示談金計315万4000円を支払う内容で示談・和解をした。

Twitter上での誹謗中傷の内容としては,「彼女の両親自体が失敗作」などと投稿されたとのことだ。

今回の示談・和解による解決に至るまで2年弱の期間がかかっている。

昨今増えている誹謗中傷だが,発信者情報開示による犯人の特定までに,費用も時間もかかるにもかかわらず,慰謝料等の損害賠償額がなかなか高額化しないという問題点がある。

誹謗中傷の慰謝料額,損害賠償額やその算定方法については以下のページを参照してほしい。

ネットの誹謗中傷の慰謝料額・損害賠償額の相場は?

 

以下,315万円という高額で示談・和解をした本件について,訴訟に至る経緯や刑事告訴の経緯,示談・和解に至った経緯等について解説する。

 

Twitter上の誹謗中傷の発信者情報開示等についての春名さんの動画

今回の訴訟の経緯,Twitter上での誹謗中傷の内容,発信者情報開示に至るプロセスや開示までの時間,損害賠償請求訴訟の内容,刑事告訴の状況,示談・和解に至った経緯などについて,春名風花さんご本人が動画で詳細な内容について報告しているので,まずは,春名さんの動画を見てほしい。

 

はるかぜちゃんこと春名風花さんの誹謗中傷被害と示談までの解説動画

 

発信者情報開示・刑事告訴・訴訟等の時系列

2018.10  弁護士に依頼

2018.12  仮処分決定(IP等が開示される)

2019.3   匿名の示談メール(金は払わない)

2019.11  契約者情報の開示決定(犯人特定)

2019.12  損害賠償請求訴訟提起(請求額 265万円)

2020.1   刑事告訴(警察が告訴状を送り返す)

2020.2   テレビでこの件を話す

2020.2.17  告訴状受理

2020.7.16  示談成立

弁護士に依頼をしてからTwtter社に対する発信者情報開示の仮処分決定が出るまでに2ヶ月程度の期間がかかっている。

その後,Twitter社から開示されたIP等の情報に基づきプロバイダを特定し,プロバイダに対するログ保存の請求契約者情報の発信者情報開示を求める訴訟提起をしているものと考えられる。

このプロバイダに対する発信者情報開示の判決がなされたのが,春名さんが弁護士に依頼をしてから約11ヶ月後だ。

その翌月に発信者情報開示請求に基づき特定された誹謗中傷犯人に対して損害賠償請求訴訟を提起している。

その後,刑事告訴,告訴状を警察に提出したものの,警察が告訴状を受理せず,送り返していた

春名さんがこの件についてテレビで言及した結果,あわてた警察が告訴状を受理して捜査を開始した。

誹謗中傷をした犯人は,当初示談を拒否(金がないと主張)していたが,警察が捜査を本格化させたことにより,示談を提示。

結果,損害賠償請求訴訟における請求額である265万円よりも高額な315万円にて示談が成立している。

 

誹謗中傷と名誉毀損罪・侮辱罪

名誉毀損罪(刑法230条1項 3年以下,50万円以下)における名誉毀損とは,公然と事実を摘示して社会的評価を低下させることだ。

しかし,以下の3つの違法性阻却事由(刑法230条の2第1項)があれば,違法性が阻却される。
・事実の公共性
・目的の公益性
・真実性の証明

刑法(名誉毀き損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

今回のTwitterでの誹謗中傷は,「彼女の両親自体が失敗作」などと投稿しており,何らの公共性もなく,違法性阻却事由は検討の俎上にも乗らないだろう。

他方で,この内容では,具体的な事実を摘示したと評価することは難しく,名誉毀損罪での逮捕・起訴は難しいのではないかと考える。

 

侮辱罪(刑法231条 拘留30日未満・科料1万円未満)は,公然と人を侮辱(軽蔑の表示)をする行為を処罰する。

侮辱罪においては,名誉毀損罪と異なり,事実の摘示はしなくても成立する。

(侮辱)刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

拘留とは,1日以上30日未満の自由刑をいう。
科料とは,1000円以上1万円未満の財産刑をいう。

「侮辱」とは,他人の社会的地位を軽蔑する犯人の抽象的判断を公然発表すること,社会的地位を害するに足るべき具体的事実を公然告知することをいう。

AKB48元メンバーのタレントで会社経営、川崎希(のぞみ)さんの件では,掲示板に「デブで気持ち悪い親子」などと投稿した誹謗中傷犯人が侮辱罪で書類送検されている。

本件についても,侮辱罪に該当するものと考えられる。

川崎希さんが誹謗中傷被害,発信者情報開示で犯人を特定し,犯人は侮辱罪で書類送検

 

刑事告訴とは?告訴状の不受理の問題点

刑事告訴とは,被害者その他法律上告訴権がある者が検察官または司法警察員に対し,犯罪事実について犯人の処罰を求める旨の意思表示をすること(最判昭和26.7.12)をいう。

告訴は,犯人の処罰を求める意思表示であるという点で,被害届とは異なる。

告訴の効果として,告訴がなされたからといって検察官が起訴を強制されるものではない。

しかし,刑事告訴がなされると,捜査機関である警察官や検察官に様々な義務が生じるため,警察官が告訴状を受理したがらない傾向にある。

具体的には,告訴を受けた警察官は,速やかに書類及び証拠物を検察官に送付しなければならず(刑事訴訟法242条),検察官は起訴・不起訴の処分を行った場合には告訴人に通知しなければならず(同法260条),不起訴処分にした場合には告訴人から請求があれば速やかに処分の理由を告げなければならない(同法261条)。

刑事訴訟法

第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

第二百四十一条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
○2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。

第二百四十二条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。

第二百六十条 検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。公訴を取り消し、又は事件を他の検察庁の検察官に送致したときも、同様である。

第二百六十一条 検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。

今回の春名風花さんの事件においても,当初,警察は告訴状を送り返し受理をしなかった。

実際に弁護士として被害届の提出や告訴状の提出などの業務を行っていると,警察が告訴状等の受理を露骨に嫌がる場面に多々遭遇する。

このような刑事告訴や被害届の受理の拒否については,警察庁にも多数のクレームが入っているようで,警察庁から注意喚起をする旨の通達が出されている。

また,犯罪捜査規範でも,警察官は被害届や告訴があった場合には,管轄区域内の事件であるかどうかを問わずに受理しなければならないと定められている(犯罪捜査規範61条,63条)。

これは,警察が,管轄が違うなどの理由(言い訳)を使って告訴等を受理しない現実が多いことから規定されているのであろう。

したがって,被害届や刑事告訴における告訴状を提出する際には,これらの刑事訴訟法の規定,犯罪捜査規範の規定,警察庁の通達内容についての知識をしっかりと理解をして警察官と粘り強く交渉していく必要がある。

ときには,警察庁や警視庁・各都道府県警へのクレームやメディアでの内容の公開というサンクションをちらつかせての交渉も有効だろう。

また,刑事告訴は警察以外に,検察官に対しても行い得るので,検察庁に対して告訴状を送付することもも手段の一つである。

 

「告訴・告発の受理体制及び指導・管理の強化について」警察庁刑事局長通達(平成31年3月27日付)

告訴・告発の相談をしても、疎明資料が十分にそろっていない、他の警察署が主となって捜査した方が効率的であるなどの理由により、受理を保留したり、他所属を紹介して受理を拒む例があるなどの苦情が依然として寄せられている

被害に苦しみ犯人の処罰を求める国民にとって、警察は最後のよりどころであり、国民からの告訴・告発に迅速・的確に対応することは、警察に課せられた大きな責務である。

各都道府県警察においては、告訴・告発の的確な受理・処理の重要性を再度認識した上で、下記により、告訴・告発について、被害者・国民の立場に立った迅速・的確な対応を徹底されたい

https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/keiki/009.pdf

 

犯罪捜査規範

(被害届の受理)
第六十一条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第六号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。

(告訴、告発および自首の受理)
第六十三条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない
2 司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。

 

春名さんTwitter誹謗中傷事件のまとめ

今回の春名風花さんの事件では,発信者情報開示をして犯人を特定するまでに1年弱,和解により解決するまで2年弱の期間がかかっている。

和解により終了せずに,損害賠償請求訴訟が判決までいくことになったならば,当事者尋問等含めて期日が重ねられ,さらに1年程度の期間(合計3年程度)がかかっていた可能性がある。

結果としては,315万円と相場以上の高額な損害賠償金額での示談・和解ができている。

とはいえ,今回の誹謗中傷犯人は,当初は金がないので損害賠償の支払っての和解は困難だと言っていた。

それが刑事告訴が受理されて警察が捜査に動き出した途端,示談をしたいと言い出した。

請求金額よりも多額な示談金になった背景としては,春名さん側が示談の受け入れを渋っていたことが要因だろう。

春名さん側は,当初示談に応じるつもりはなく,刑事・民事両面での制裁を望んでいた。しかし,刑事事件になっても罪が極めて軽い(侮辱罪は軽い犯罪)という弁護士からのアドバイスなどにより,示談に応じることになった。

このように,警察の動きが誹謗中傷犯人に与えるプレッシャーは非常に大きく,警察にはしっかりと動いていただきたい。

特に,今回のように告訴状を送り返し,メディアで報道されるや否や告訴を受理するといった警察の対応には不信感が拭えない。

警察庁からの通達にあるように,「被害に苦しみ犯人の処罰を求める国民にとって、警察は最後のよりどころであり、国民からの告訴・告発に迅速・的確に対応することは、警察に課せられた大きな責務である」ことを自覚して,適切な警察の対応を切に願いたい!

 

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