AIで芸能人の顔にすり替えた「ディープフェイクポルノ」公開 容疑の2人逮捕

ニュース内容

人工知能(AI)を使ってポルノ動画の出演者の顔を女性芸能人の顔にすり替えた「ディープフェイクポルノ」をインターネット上で公開したとして、警視庁と千葉県警は2日、熊本市中央区黒髪5、大学生、林田拓海(21)と、兵庫県三田市三輪1、システムエンジニア、大槻隆信(47)の両容疑者を名誉毀損(きそん)と著作権法違反容疑で逮捕したと発表した。同庁によると、ディープフェイクポルノを巡る摘発は全国で初めて。

逮捕容疑は2019年12月~20年7月ごろ、市販のポルノ動画の出演者の顔を女性芸能人の顔とすり替えた動画を作成してネット上で公開し、芸能人の名誉を傷つけ、元の動画の制作会社の著作権を侵害したとしている。林田容疑者は芸能人2人と制作会社4社、大槻容疑者は芸能人2人と制作会社3社について立件された。

警視庁保安課によると、林田容疑者は自身が運営する有料サイトで偽動画を公開して約80万円を受け取っており「お金が欲しかった」、大槻容疑者は「第三者から評価を得るために公開した」と共に容疑を認めている。両容疑者はメールで技術的な相談をしており、ネット上で入手できるフリーソフトを使用。林田容疑者は約150本、大槻容疑者は約250本の偽動画を公開し、ネット上では「ディープフェイク職人」と呼ばれていた。同庁などが19年に実施したサイバーパトロールで発覚した。

国内でディープフェイク自体を規制する法律はない。俳優らの地位向上に取り組む日本芸能実演家団体協議会(芸団協)は「ディープフェイクポルノは俳優らの人格権を侵害しており、規制する法整備を期待したい」としている。

毎日新聞2020年10月2日 11時16分(最終更新 10月2日 19時08分)

弁護士からのコメント

ディープフェイクポルノとは?

『ディープフェイクポルノ』とは、人工知能(AI)の技術「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク(偽物)」を組み合わせた造語「ディープフェイク」のうち、女性芸能人の顔を市販のポルノ動画(アダルト動画)にはめ込んで作成した偽動画のことを指します。

近年の急激な技術進歩により、まるで女性芸能人本人が出演していると誤解してしまうような、合成だと判断しづらい巧妙な動画の作成が可能になっています。

アメリカの一部の州ではディープフェイクポルノの公表を規制する法律がありますが、日本では直接これに対応する法律はなく、ディープフェイクポルノを巡る摘発は全国で初めてです。

どういった容疑で逮捕されたのか?

上記のニュース内容にあるとおり、2名の被疑者は名誉毀損罪著作権法違反ということです。

名誉毀損罪

名誉毀損については、偽動画をインターネット上に公開することにより、偽動画の「顔」に使われた芸能人の社会的評価を下げたとして、名誉毀損罪(刑法230条1項)の構成要件に該当すると思われます。
法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金と定められています。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

著作権法違反

著作権法違反については、偽動画の作成にあたり、偽動画の「身体」に使われた元々のポルノ動画の制作会社との関係で、制作会社の有する著作権のうち、翻案権(著作権法27条)、公衆送信権(著作権法23条)、同一性保持権(著作権法20条1項)侵害が問題となります。

具体的には、制作会社は制作した動画について、動画を改変する権利(翻案権)、インターネットを通じて送信する権利(公衆送信権)、その意思に反して動画を改変されない権利(同一性保持権)を有しています。

今回2名の被疑者が制作会社に無断で動画を改変し、出来上がった動画をインターネットで販売等していたことは、これらの著作権侵害に当たると考えられます。

著作権侵害についての罰則は相当重く、今回のケースでは、法定刑は10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金(著作権法119条)となっています。

(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、同条第四項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第五項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第六項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

技術の進歩が逮捕に繋がった?

これまでも既存のポルノ画像や動画に対して女性芸能人の顔を合成したものが出回っていたりするケースは散見されましたが、逮捕にまで繋がったケースはそう多くはないと思われます。

今回のケースとの違いは、ひとえに合成加工技術の進歩が影響を与えているといっていいでしょう。

つまり、これまで存在していたような合成加工画像や動画は、まず誰が見ても合成だとわかるような出来の悪いものが大半でした。

すなわち著作権侵害の問題はあるものの、そのような画像や動画をインターネット上に公開したからといって、当該女性芸能人がポルノやアダルト動画に出演しているとは一般人が思えるほどのものではなく、それゆえ名誉毀損罪までは成立しませんでした。

今回のケースでは、人工知能技術の進歩により、本当に女性芸能人がポルノ動画に出演していると誤解されかねないほどクオリティの高い動画が作成されていたと思われます。

今後も、同様のケースが摘発されることになるのではないでしょうか。

2名の被疑者について民事上の責任は問われるのか?

刑事上の責任(刑事罰)については先に述べたとおりですが、民事上の責任(損害賠償請求等)については、女性芸能人及び制作会社から別途問われることになるでしょう。

1名については利益を得る目的で動画を投稿していたとのことですので、悪質なケースであると理解されますし、動画の閲覧数や販売数に応じて、相当高額の賠償請求となると見込まれます。

ディープフェイクポルノ動画を作っている場合どうしたらよいのか?

原則として、ディープフェイクポルノ動画を作成することは法律上認められていません。

作成を今すぐやめて、公開している動画などは直ちに削除しておくべきでしょう。

もし既に芸能人や制作会社から請求がきている場合には,早急に弁護士に相談・依頼することがベターです。

ディープフェイクポルノを含めたアダルト動画・画像,リベンジポルノ動画・画像の削除については,以下の記事もご参照ください。

リベンジポルノ画像・動画の削除(発信者情報開示)方法

自分の写真や動画がディープフェイクポルノ動画に利用されている場合はどうしたらよいのか?

今回のニュースにあるよう警察もサイバーパトロールを行っているとのことですので、ディープフェイクポルノの問題に力を入れていると思われます。

ですので、まずは警察に相談するのがよいでしょう。

また、民事上の損害賠償請求等を行いたい場合は、弁護士に相談しましょう。

なお投稿者が誰かわからない場合には、ネット上の誹謗中傷問題に注力している弁護士・法律事務所を選択するのがよいと思われます。

というのも、投稿者を特定するためには発信者情報開示請求などを行う必要があるのですが、それには専門的知識や経験が要求されるからです。

最後に、当事務所では、刑事責任の追及を行う事件、著作権法等知的財産に関わる事件、誹謗中傷等を始めインターネット上の問題に関わる事件について多くのご相談を受けており、解決実績も豊富にあります。

ですので、ディープフェイクポルノはもちろん、誹謗中傷でお悩み・お困りの際は、遠慮なくご相談ください。

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